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翻訳 Q&A
疑問や誤解が多い翻訳に関する問題を質疑応答形式で紹介します
翻訳
Q&A
ー基礎編
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Q.翻訳(英語の場合)と、英文和訳とは違うのか?
A.違います。
英文和訳は英語という記号を置き換えて対象言語(日本語)で概略をつかむことで、記号の変換のようなものです。あくまで英語の概略をつかむための参照とするのが役割で、日本語だけをみると、誤解を生む場合すらあります。
英文和訳(和文英訳)は主に構造的変換を通じて理解することなのです。 これに対して翻訳とは、表層・深層構造から英語の文章を解釈することです。 以上から、英語(外国語)で会話できる能力がイコール、翻訳力に優れた翻訳者にはならないことが分かります。
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Q.翻訳でいう”解釈”とは何か?
「理解」と「解釈」とは別のものです。
たとえば、クラシック音楽のコンサートを聴きに行った場合、指揮者が指揮棒を振っています。指揮者はコンサートでただ棒を振るのが役割ではありません。指揮棒を振るのは指揮者の仕事の10%にも満たないと言われています。主な仕事は曲を楽譜のみならず時代背景等さまざまな情報をベースに「解釈」することです。クラシック音楽ファンは多数いますが、中には楽譜を読んで音楽を”理解”する聴衆もいるでしょう。しかし、解釈して聴かせるとなると、プロの判断が問われます。
翻訳においては、統語(生成変形文法等を含む場合もある)、意味、語用、内容によりますが音韻・音素、そして文化の違いの理解をベースに解釈して、一つの文化的な意味を別の文化的な意味で表現することです。「表現する」という意味では、翻訳を「アート」(art of expression)と位置づける場合もあります。統語や音韻等表面的に読み取れるものを表層、文化や業界の常識等ワーキングナレッジなしでは読み取れないものを深層構造と呼ぶことがあります。なお、この表層と深層については、数理言語学でいう生成変形文法の考え方をベースにしているわけではありません。
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Q.分野理解には論理理解が必要というが、どういうことか?
A.分野や業界(IT、機械、化学等)にはそれぞれ独特の用語があります。
用語を理解しただけでは翻訳にはなりません。解釈が必要です。
そのためには各分野の文書で展開される論理を理解しておくことが必要です。またこれらも企業によって異なることがあるため、企業と翻訳者とコミュニケーションが必要です。
翻訳
Q&A
-応用編(翻訳論考)
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Q.等価(動的等価)翻訳とは何か?
A.日本ではふつう、日本語が当たり前のように話されています。
ところが、各言語にはその環境でしか通用しない考え方や概念が背景にあり、無意識のうちに話す会話やことばの中に取り込まれています。これを社会的環境とか文化とかいいますが、翻訳の場合は、背景がかなり異なる2つの言語を取り扱うため、そのような無意識的な背景理解を、今度は意識的に表現する必要が出てきます。この意識化を忘れて、表面に現れた文のみを構造的につかみ、文構造を変えることなく、他国の言語に変換すると、ことばは合っていても、意味は通じないことがあります。同じ背景が裏にある場合は通じますが、社会的背景や考え方がまったく異なる場合は、通じません。最悪の場合、誤解が生じてしまいます。
翻訳とは、理想的には、また理論上は、構造(狭義では統語)上の位置を変えずに(例えば、主語は主語の位置など)、他国の言語に変換することです。しかし、もともと翻訳理論は欧米で発達してきたこともあって、印欧語間の変換が中心に研究されてきました。日本語や中国語はかなり特殊な特性を持つ言語です。そのため、同じ操作を行った結果として、意味が損なわれたり、誤解が生じたり、通じなかったりすることがあります。そのような場合は、文化的な背景を考慮して含意を変えないように、自国でのみ通用する文構造を他国でのみ通用する文構造に変えて表現します。これを等価翻訳といいます。 簡潔にいうと、例えば、英語から日本語に翻訳した場合、その日本語がどうもぎこちなかったり、意味が分かるような分からないような感じを受けたりすることがあります。このような場合、翻訳の際、英語の構造にとらわれすぎたため、日本語を英語の構文にそって表現した形になっている、あるいは翻訳後の日本語の校正が不十分なことが原因と考えられます。つまり、どちらかの言語特性に気を取られたため、等価(動的等価)翻訳が十分行われていないということになります。
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Q.統語、意味、語用論とは何か? 翻訳ではどのように関係するのか?
A.統語とは文の構造です。学校で学ぶ文法でいえば、日本語なら一般的にSOV、英語ならSVOの並び方をする線形構造です。
この構造をみても、日本語と英語は明らかに違います。英語から日本語に翻訳する場合は、まず、英語の文の構造を解析して伝えたいことを引き出します。これは統語的な作業プロセスです。次に、その文が使用された環境を考えます。どのような環境で使用されたものなのか-学会、会社の役員会、工場のエンジニアなど-を読み取るのです。翻訳を請け負った段階で、そのような情報が記載された書類などが提供されている場合は、それらの書類を参照にできるため、読み取る作業負荷は軽減されることがあります。
続いて、各単語や語句一つひとつの意味と、いくつかの語句や表現がまとまった場合、それぞれの意味を形態素のみならず、定型句などを含め、歴史的、心理的な描写を考慮して、含意を読み取ります。広義的になりますが、これが語用的な作業プロセスです。以上を組み合わせた上で、英語の意味を理解し、今度は、読み取った内容について、日本で似た状況を想定して、日本語の文を組み立てます。このように、統語論、意味論、語用論などの各考え方を織り交ぜながら、起点言語から対象言語に変換して、表現するプロセス全体を翻訳といいます。
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Q.翻訳スタイルとは何か? スタイルは翻訳品質か?
A.表現には人それぞれ個性があります。
表現の仕方で人となりが分かる場合もあります。また、同様に、各業界にはその業界の用語や表現方法があります。さらには、同じ業界でも、企業によっても違いがあります。これが文章のスタイルです。外国語を解釈して母語に変換して表現した場合(前述の翻訳プロセス)、その表現には個性が表れます。業界ごとのスタイルは知っていても、各企業の文章スタイルは独自で分かりにくい場合があります。翻訳を開始する前に、参照文献としてスタイルが分かるような文献が提示されている場合は、翻訳時に反映させることができますが、それ以外はなかなか難しいものがあります。
中でも日本語は特に、表現の幅が広く、個性は実に豊かです。技術翻訳においては、全体を「です・ます」調(敬体)にするのか、「だ・である」調(常体)にするのか、箇条書き部分はどちらにするのかなど、細かな好みや独自の文体(選好という)があります。このスタイルを翻訳スタイルといいますが、やはり依頼側にも、翻訳者と同様、好みがあります。依頼者が翻訳者の使用に慣れていないと、スタイルが自分の好みとは違うから、翻訳品質が悪いと評価する場合があります。依頼者の好みは汎用化されたものではないのですが、日本語の特性に気づいていない場合は、日本語とはこういうものだという固定観念があり、それからずれたものを悪い翻訳とする依頼者もいます。実は、日本語は本当に多様な表現が可能な言語なのです。そのため、翻訳においては、完成した翻訳成果物で文の流れや内容が適格な場合は、翻訳品質が悪いという判断にはならないので、その点は注意が必要です。「翻訳の解釈が明らかに間違っている」、「業界の常識が明らかに理解されていない」、「用語が統一されていない」などは、品質不良の一部といえるでしょう。スタイルは調節が可能なのものとして、品質査定に大きな影響を及ぼすものとはとらえるべきではないと思われます。つまり、スタイルは翻訳の発注者と受注者とで調節していくべきものであると考えます。
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Q.機械翻訳(MT:Machine Translation)はどのようなものか? 長所と短所は何か?
A.機械翻訳は、例えば、英語を日本語に翻訳する場合、英語の文を入力すると、プログラムを介して日本語に変換されるシステムです。
登場しはじめた数十年前は、特に日本語への翻訳はほぼ意味を成す状態ではありませんでした。機械学習(マシンラーニング)が発達した現在、Web 上でも、ある程度分かりやすい構造の文や内容であれば、翻訳は十分可能です。言語の形態素のつながりの解析などにより、MTでも、意味を成す表現を作り出すことが可能になっています。また、人間の脳機能に近いニューラルネットワークのシステムの登場は、MTの活用頻度に応じて翻訳精度が上がるしくみを可能にしました。この結果、機械による翻訳がある程度可能になり、表現の幅が一定である技術文書では翻訳の精度も向上しています。しかし、上述のように、人間による等価翻訳では、「文と文とのつながりに隠れた意味を読み取る」作業があります。ここが、MTではまだ難しい点のようです。
昨今、MT後の編集という業務が登場しています。MTで翻訳したものを人間の翻訳者がチェックする業務ですが、多数の案件から分かることは、定型文や決まった表現ではなく、文体が崩れた文を翻訳した翻訳文は、意味がさっぱり分からないものになっている点です。この点ではまだ、人間の介入が必須の段階です。 MTの精度が悪い場合は、逆に人間による翻訳修正が必要になり、かえって手間がかかる上、MTによるコスト削減のつもりが、逆にコスト高という結果になる場合も結構あります。MTの翻訳がどの程度のものなのかは、専門家である翻訳者と相談して判断することができます。その結果に基づいてMTを使用したほうがよいかどうかを決めることで、コストの適正化も実現できるのではないかと思われます。MTが優れているといっても、翻訳の専門家からみると、英文和訳レベルにしかなっていないものも相当あるので、MTで対応可能な部分と、そうではない部分を翻訳者と相談の上、活用していくのが適切ではないでしょうか。MTが得意とする部分では時間とコストの削減となります。これはMT利用の長所ですが、反面、それ以外まで拡張活用すると逆の結果を生み、短所となってしまいます。
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Q.技術(産業・実務)翻訳と文芸翻訳はどう違うか?
A.技術翻訳は実務翻訳ともいうことから、企業の業務案内、パンフレット、マニュアルなど、ビジネス面で必要となる翻訳です。
IT、電気電子、機械工学、化学、法律などさまざまな分野があります。一方、文芸翻訳とは小説など、文学作品の翻訳です。文学作品の翻訳には、すべてではありませんが、翻訳者自身が作家ともなれるような独創性が求められる場合があり、実務翻訳とはかなり異なる世界です。この両者の違いを理解することが、適切な翻訳者を選ぶ基準ともなります。
実務翻訳者のほとんどは文芸翻訳は受注しません(一部、両者をこなる翻訳者もいます)。また、文脈などの理解から、実務翻訳でも、担当可能分野が翻訳者によって異なるため、依頼の際は注意が必要です。
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Q.翻訳とローカリゼーションとは何が違うか?
A.翻訳は起点言語の意味が変わらないように対象言語で表現することです。
ローカリゼーションとは、そこから対象言語が使われる地域の社会、文化において内容がより受け入れられやすいように調整する翻訳プラスアルファの作業です。起点言語にあっても対象言語の使用地域では分かりずらいものを改変し書き直す作業も含まれ、翻案に近い作業を指すこともあります。
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